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『サイコ』の一場面に見る映像感覚 / 映画『サイコ』 Psycho

🔶『サイコ』の一場面に見る映像感覚 2015/10/1(木) 午後 0:09

映画『サイコ』(Psycho 1960年米 アルフレッド・ヒッチコック監督)の、フランク・アルバートソン扮する金持ちの男が、ヒロインのジャネット・リーに言い寄る場面で、急にカメラの切り返しが極端な仰角と俯角になる。

映画の対話シーンに於いて、唐突に仰角俯角となる場面は、
溝口健二監督の映画で、若い登場人物を高齢のベテランが問い詰め始める場面にもあるが、
これは上下関係が台詞のレベルでも強く示されたシーンだから上下の画面になるという単純明快なものであり、
映像センスに根本的と言える程の違いがある。
(ただ、溝口監督の映画でも必ずしも常に映像技法と物語での位相が一致しているわけではないが。)

ヒッチコック監督映画の場合、『表面的』なレベルでは、金持ちの男は、ヒロインのOL
(彼女は、この男の金を持ち逃げして、あのモーテルに行き着くことになるので、彼が金をひけらかす事自体に、物語上の一定の重みがある。)
のデスクに来て自分の娘の写真を見せて、この娘に自分は望み通りの生活を送らせてやれる、といった話を始めているだけで、『言い寄っている要素』は出ていない。(わざわざ彼女のみに向かって話を持ち出す事自体の『違和感』は有るが。)

しかし『内面的』レベルでは、ここで急に俯角仰角になることが、(勿論演者の口調・表情も含めて)雰囲気の不穏な変化をもたらし、彼がただ娘のことを話しているだけではない別の意味合いを暗示していることを、見る者に感じ取らせる。

しかも、この仰角俯角化は、図の対比としては『唐突』ながらも変化自体は、

男が見せた写真を覗き込む如く生じた自然なものであり、映像的必然性を持ち、
説得力のあるセンスをもって、映像が固有の言語としても詰めてくる、
言わば映画的に『ギョッ』とする感じがある。


映画『ダイヤルMを廻せ』(Dial M for Murder 1954年米)。アンソニー・ドーソン扮する刺客が、レイ・ミランド扮する依頼主の教えた場所に家の鍵を戻していた、というのが案外盲点で、
これを警察が発見した瞬間は、グレース・ケリー扮するヒロインの冤罪を証明する、ヒッチコック的位相映像にもなり得るポイントだが、概念がやや複雑な為か、ここでは会話のみで説明されている。

(15年10月19日 22日24日加筆)


🔶 映画『サイコ』 Psycho

2015/10/1(木) 午後 0:00

『サイコ』Psycho 1960年 米 パラマウント社配給

ジャネット・リーの有名なシャワーシーン。実は、この映画のタイトル・グラフィックを担当したソール・バスの演出だと聞く。

たしか、製作・監督のアルフレッド・ヒッチコックへの、フランソワ・トリュフォーによるインタビューを纏めた書籍『映画術』でヒッチコックは、そのことに触れていない。

一方ヒッチコックは、この書で、マーチン・バルサム扮する探偵が刺される(また別の)シーンをソール・バスに演出させてみたが、出来が悪くてボツにした、との件は語っている。

シャワーシーンを演じたジャネット・リーの1995年の著書(クリストファー・ニッケンスとの共著)『サイコ・シャワー』によると、シャワーシーンの撮影全てにヒッチコックが立ち会い、ソール・バスは全くタッチしていなかったと言う。

また同書では、探偵が刺されるシーンは、ヒッチコックが風邪をひいたため、ヒッチコックの指示に基づいて助監督のヒルトン・グリーンが撮影したが、後で改めてヒッチコックが撮影したそうである。

助監督の部分も若干使っているらしいが、大部分ボツにした理由が、『映画術』でヒッチコックがソール・バスの演出をボツにした理由として述べたものと同じ(探偵の手や足だけを撮っているショットで、まるで悪意の無い探偵が悪者のごとく感じられる。)だが。

シャワーシーンの演出がソール・バスだというのは、このシーンの絵コンテを描いたのがソール・バスであるらしきこと(これはソール・バス自身の発言で初めて一般に認識されたのではないか。)から、彼自身がそれを演出と述べた自己主張に過ぎないとする意見もある。

助監督ではないグラフィックデザイナーのソール・バスに実写部分にまで関わらせたのは、当時フランスで始まったヌーベル・バーグ風の、既成の映画技法と異なる画面のつなぎ方を意図した可能性もある。

出演アンソニー・パーキンス(ノーマン)、ジャネット・リー(マリオン)、ヴェラ・マイルズ(マリオンの妹)、ジョン・ギャヴィン(マリオンの彼氏)、ボーン・テイラー(マリオンの勤務先の経営者)他。音楽バーナード・ハーマン。脚本ジョセフ・ステファノ。撮影ジョン・L・ラッセル。原作ロバート・ブロック。編集G・トマシーニ。美術J・ハーレイほか。

(2日加筆)


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